ボルトが締結部をしっかり保持できるのは、適正な締付け軸力が得られたときだけです。少なすぎると締結部が緩んだり、繰返し荷重で破損したりします。多すぎるとボルトが伸びすぎます。締付けトルクはそこへ至る手段であり、多くの人が考えている以上に潤滑の影響を受けます。
強度区分から分かること
鋼製ボルトの頭部には、点で区切られた2つの数字(例:8.8)が刻まれています。ここから強度を直接読み取れます。
- 最初の数字×100が引張強さRm(N/mm²)です。8.8なら800 N/mm²です。
- 最初の数字×2番目の数字×10が降伏点Re(N/mm²)です。8.8なら8 · 8 · 10 = 640 N/mm²です。
| 強度区分 | 引張強さ Rm | 降伏点 Re | 適合するナット |
|---|---|---|---|
| 8.8 | 800 N/mm² | 640 N/mm² | 強度区分8以上 |
| 10.9 | 1000 N/mm² | 900 N/mm² | 強度区分10以上 |
| 12.9 | 1200 N/mm² | 1080 N/mm² | 強度区分12以上 |
強度区分の数字は公称値です。10.9と12.9については、規格で最小耐力がやや高く定められています(940および1100 N/mm²)。下表のトルクはこれらの値で計算しています。
締付けトルクの目安値
この表は、メートル並目ねじの六角ボルト、摩擦係数µ = 0.12(例:リン酸塩処理または黒染めで軽く油を塗ったもの)、締付け時の降伏点利用率90 %の条件で適用されます。括弧内はそのとき得られる締付け軸力です。
| ねじ | 8.8 | 10.9 | 12.9 |
|---|---|---|---|
| M6 | 10.1 N·m(10.2 kN) | 14.9 N·m(15.0 kN) | 17.4 N·m(17.5 kN) |
| M8 | 24.6 N·m(18.6 kN) | 36.1 N·m(27.4 kN) | 42.2 N·m(32.0 kN) |
| M10 | 48.5 N·m(29.6 kN) | 71.2 N·m(43.5 kN) | 83.3 N·m(50.9 kN) |
| M12 | 83.6 N·m(43.1 kN) | 123 N·m(63.3 kN) | 144 N·m(74.1 kN) |
| M16 | 206 N·m(81.0 kN) | 302 N·m(119 kN) | 354 N·m(139 kN) |
これらは目安値です。図面、組立説明書、メーカーの指定値が優先します。
潤滑がこれほど影響する理由
トルクの大部分は摩擦に消費されます。ボルトの潤滑が良いほど、同じトルクでより大きな締付け軸力が得られます。そのため、表の値とボルトの状態が一致している必要があります。
例
強度区分8.8のM10を、それぞれ降伏点の90 %まで締め付けます。必要なトルクはいくらですか?
| ボルトの状態 | 摩擦係数 µ | 締付けトルク |
|---|---|---|
| 軽く油を塗布 | 0,12 | 48.5 N·m |
| より乾燥 | 0,14 | 53.9 N·m |
油を塗ったボルトを乾燥状態の値で締め付けると、計画よりかなり大きな締付け軸力がかかり、ボルトが伸びすぎるおそれがあります。逆に、乾燥したボルトを油塗布時の値で締め付けると、締付けが不足します。
組立現場での精度はどのくらいですか?
正しい値を使っても、締付け軸力は締付け方法によってばらつきます。トルクレンチでは最大締付け軸力が最小の約1.6~2.5倍、インパクトレンチでは2.5~4倍になります。そのため、重要な締結部にはトルクレンチが欠かせません。
よくある間違い
- ナットの強度不足:10.9のボルトには強度区分10のナットが必要です。強度区分8のナットでは、ボルトに全荷重がかかる前にナットのねじ山がせん断されます。
- 摩擦係数を考慮しない:表の値は乾燥状態なのに、ボルトには油が付いている。その結果、ボルトが伸びすぎます。
- 表の値を別の頭部形状に流用する:フランジ付きボルトや皿ボルト、大きなボルト穴では、頭部座面の摩擦が変わり、トルクも変わります。
- 降伏点の読み違い:8.8なら640 N/mm²であり、64ではありません。
- 8.8以上でばね座金を緩み止めに使う:高強度ボルトでは緩み止めになりません。重要なのは締付け軸力です。
よくある質問
10.9を8.8の値でそのまま締め付けてもよいですか?
安全ではありますが、強度を無駄にします。締結部の締付け軸力は8.8と同じにしかなりません。それで十分かどうかは設計で決まります。
この値はステンレス鋼ボルトにも使えますか?
いいえ。A2-70などのステンレス鋼製ボルトは強度が異なり、かじりが起きやすくなります。専用の値があります。